先日、 ほぼ1日かけて、ゆっくりと読みました。「里山」という視点から、人々と島の自然との関わりが、「聞き書き」という手法を通して語られています。

 島ごとに、そして村ごとに異なる里山。里山から得られる植物も異なり、その呼び名も使い方も、地域性があって興味深い。

 私は主に、昔ながらの繊維の利用に興味があったのですが、その他にも植物は、食べ物、肥料、魚を獲るための毒、燃料としての薪など、地域ごとに適した種類が様々に利用されて来たことが示されています。

 なお、げっちょ先生の聞き書きは、読者が聞き取りの現場に参加しているような、臨場感のある自然な語り口が魅力です。この記録は、全く録音をせず、聞いたその場で言葉のニュアンスそのままをメモに書き起こし、数時間の聞き取りもその数時間後には電子データとなっているという、驚異的とも言えるものなのです。

 様々な植物の繊維の話はもちろん面白かったのですが、古老のお話で興味深かったのが、4章の5でソテツの利用について語られた、奄美大島の I. S, さんのお話。
 要約すると、自分は小さい時から畑仕事。昔の人は裸足で勤勉だったが、今はみんな靴履いて車で畑にくる。今は贅沢な時代になった。でも、みんな、自然のことを忘れてしまった。畑には、誰もいなくなった。これ以上、ひらけてはいけないのでは?宇宙まで行かなくても、荒れた畑はいっぱいある。金持ちしか宇宙に行けないでしょ?みんなが幸せになることを発明したほうがいいね。

 『琉球列島の里山誌』には一部だけが引用されていましたが、全文が読みたくて、オリジナルを探して見ました。オリジナルは『聞き書き・島の生活誌② ソテツは恩人 ー 奄美のくらし』盛口・安渓編、2009、ボーダーインクの、第1章。
 これまでの一生を奄美大島で暮らし、里山の暮らしの変化から、気候変動の過程を的確に語る I. S, さん。里山の自然は、世界の未来を予言している。