30年以上も昔、私が琉大の学生だった頃、沖縄島の中城湾の刺し網からカニ類を集め、標本として整理し、これまで国立科学博物館に保存されていた標本が、『沖縄島中城湾産浅海性カニ類 ( 鹿谷コレクション ) の目録』として、今日発表されました。

論文としてまとめて下さったのは、国立科学博物館の武田先生や小松先生をはじめ、株式会社かんきょう社の前之園さんや琉球大学熱帯生物圏研究センターの成瀬先生など、カニ類の専門家の方々です。図版20枚を含む109ページに及ぶこの記載論文は、標本の再同定や日本新記録種の記載、これまで中城湾から記載されているカニ類の報告の整理など、長い年月と膨大な手間をかけてまとめられました。みなさん、どうもありがとうございました! ちなみに私は、原稿を読んだだけ(笑)。

この論文には日本新記録の種が5種載っています。これらの中には、学生時代に内地のカニ図鑑を見ながら名前を調べた時、「何か、雰囲気が違うけど、この種類かな〜?」と思いつつ同定した種類も含まれています。やはり別種だったのか〜と、30数年ぶりに納得しました。

この論文は現在、査読付きオンラインジャーナルの Fauna Ryukyuana のトップページから、自由にダウンロード可能です。ただ、ファイルサイズが26Mbもあるので、ダウンロードの際はご注意ください。トップページに別の論文が表示されている場合、ページ左のカラムにある「目次」をクリックし、「50巻」を探してダウンロードしてください。

論文の後ろの方にある図版には、記載されている全てのカニの写真が掲載されています。30年以上も前にホルマリンで固定され、アルコールに長期間保存されていた標本は、色が抜け、白っぽくなっています。でも、一部にはまだ色や模様が残っていますし、何よりいろんな形のカニがいたことがわかります。

現在、中城湾では刺し網漁はほとんど行われず、また近年では生物多様性が大きく失われたこともあって、なかなか見ることのできないカニも載っています。沖縄の海で珍しいカニを捕まえたけど、ぴったりなのがカニ図鑑に載ってない…という時、分類の助けになるかもしれません。

要旨 . 1985–1987 年 , 沖縄島中城湾の知念漁港 および当添漁港において , 漁業者が設置した刺 し網にかかったカニ類を収集した「鹿谷コレク ション」について , ケブカガニ科以外の全種を 同定し , 写真付きリストにまとめた . カラッパ 属 Calappa ( カラッパ科 ) 8 種についてはすで に Takeda & Shikatani (1990) によってまとめら れ , また , イボテガニ属 Actumnus ( ケブカガニ 科 ) の 2 新種については Takeda & Komatsu (2017) により記載されている . 本報告では , 既報のこ れら10種を除いて, 23科87種を認めた. その うち , コブヒメカイカムリ ( 新称 ) Epigodromia rugosa McLay, 1993 ( カイカムリ科 ), ミナミジュ ウイチトゲコブシガニ ( 新称 ) Arcania brevifrons Chen, 1989 およびミナミコブシガニ ( 新称 ) Soceulia alainia Galil, 2006 ( 以上 2 種はともにコ ブシガニ科 ), ミナミツノガニ ( 新称 ) Hyastenus elatus Griffin&Tranter,1986(モガニ科),ミ ナミノコギリガニ ( 新称 ) Schizophrys dahlak Griffin & Tranter, 1986 ( ケアシガニ科 ), Portunus (Xiphonectes) aff. spiniferus Stephenson & Rees, 1967 ( ワタリガニ科 ) の 6 種が日本新記録種で あり , 種名が確定した 5 種に新たな和名を提唱 した . 近年 , 刺し網漁を行う漁業者が減少し , ま た度重なる沿岸環境の改変により , 中城湾にお いてカニ類等を同様な方法で採集することは難 しい状況であることからも , 本コレクションは 非常に重要な資料である .

Abstract. One of the authors (NS) made extensive collections of shallow water brachyurans (= crabs) of Nakagusuku Bay, southeastern Okinawa Island, from gill net at Chinen and Tozoe fishery ports between 1985 and 1987. Takeda & Shikatani (1990) already reported seven known and one new species of the genus Calappa (Calappidae), and recently Takeda & Komatsu (2017) described two new Actumnus species (Pilumnidae) from this collection. However, most of the specimens collected have still not been reported on. The present report enumerates the brachyuran species other than some remaining specimens of the family Pilumnidae, with photographs and taxonomic comments. Of the recorded species, Epigodromia rugosa McLay, 1993 (Dromiidae), Arcania brevifrons Chen, 1989 (Leucosiidae), Soceulia alainia Galil, 2006 (Leucosiidae), Hyastenus elatus Griffin & Tranter, 1986 (Epialtidae), Schizophrys dahlak Griffin & Tranter, 1986 (Majidae) and Portunus (Xiphonectes) aff. spiniferus Stephenson & Rees, 1967 (Portunidae) are new to Japanese waters.